あなたの個人年金保険はいくら節税になる?控除額と計算方法を解説
個人年金保険で家計を助ける節税効果を知る
老後の生活資金を計画的に準備する方法として、個人年金保険への加入を検討されている方、あるいは既に加入されている方もいらっしゃるでしょう。個人年金保険は、将来の年金を受け取るための貯蓄機能に加えて、実は税金面での優遇、つまり節税効果が期待できる制度があります。
この節税効果は、「個人年金保険料控除」という仕組みによって得られます。ご自身の所得から一定額を差し引くことができるため、結果として所得税や住民税の負担を軽減することにつながります。
この記事では、個人年金保険料控除の基本的な仕組みから、具体的にどれくらい税金が安くなる可能性があるのか、加入されている個人年金保険が控除の対象となるかなどを分かりやすく解説します。既に個人年金保険に加入されている方も、年末調整や確定申告で活用するために、ぜひ最後までご覧ください。
個人年金保険料控除とは?基本的な仕組みを理解する
個人年金保険料控除は、生命保険料控除の一種です。1年間(1月1日~12月31日)に支払った生命保険料に応じて、一定の金額が所得から差し引かれる(控除される)制度です。
生命保険料控除は、契約時期によって「新制度」と「旧制度」に分かれており、個人年金保険料控除もこのどちらかの制度が適用されます。そして、個人年金保険料控除は、一般の生命保険料控除や介護医療保険料控除とは別枠で控除が受けられる点が特徴です(新制度の場合)。
所得から控除される金額が大きいほど、税金がかかる対象となる所得(課税所得)が減るため、所得税や住民税の負担が軽減されます。
個人年金保険料控除の対象となる保険とは?
個人年金保険であれば、すべてがこの控除の対象となるわけではありません。以下の全ての要件を満たす個人年金保険が、個人年金保険料控除の対象となります。
- 年金の支払開始年齢が満60歳以降であること
- 年金の支払期間が10年以上であること
- 契約者が被保険者(保険の対象となっている人)と同一であること
- 保険料の払込期間が10年以上であること
これらの要件を満たしている保険契約には、「個人年金保険料税制適格特約」などが付加されており、保険会社の提供する「生命保険料控除証明書」にもその旨が記載されています。ご自身の契約が対象となるか不明な場合は、保険証券を確認するか、保険会社に問い合わせてみましょう。
控除額の計算方法と上限額(新制度・旧制度)
個人年金保険料控除によって所得から差し引ける金額は、1年間に支払った保険料の金額に基づき、加入している保険の契約時期によって適用される制度(新制度または旧制度)によって異なります。
新制度(平成24年1月1日以後に締結した保険契約)
新制度では、生命保険料控除全体で所得税は合計最大12万円、住民税は合計最大7万円まで控除を受けることができます。この合計額は、「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3つの控除を合算した金額です。
それぞれの控除について、年間の支払保険料等に応じた控除額の上限は以下のようになります。
所得税の控除額(各控除の種類ごと)
| 年間の支払保険料等 | 控除額 | | :--------------------- | :------------------- | | 2万円以下 | 支払保険料等の全額 | | 2万円超 4万円以下 | 支払保険料等 × 1/2 + 1万円 | | 4万円超 8万円以下 | 支払保険料等 × 1/4 + 2万円 | | 8万円超 | 一律 4万円 |
※所得税の控除合計額は、上記3種類の控除額(それぞれ最大4万円)の合計で、最大12万円です。
住民税の控除額(各控除の種類ごと)
| 年間の支払保険料等 | 控除額 | | :--------------------- | :------------------- | | 1万2千円以下 | 支払保険料等の全額 | | 1万2千円超 3万2千円以下 | 支払保険料等 × 1/2 + 6千円 | | 3万2千円超 5万6千円以下 | 支払保険料等 × 1/4 + 1万4千円 | | 5万6千円超 | 一律 2万8千円 |
※住民税の控除合計額は、上記3種類の控除額(それぞれ最大2万8千円)の合計で、最大7万円です。
例えば、年間8万円以上の個人年金保険料を支払っている場合、個人年金保険料控除として所得税から4万円、住民税から2万8千円がそれぞれ所得から差し引かれます。
旧制度(平成23年12月31日以前に締結した保険契約)
旧制度では、生命保険料控除全体で所得税は合計最大10万円、住民税は合計最大7万円まで控除を受けることができます。旧制度の控除は、「一般生命保険料控除」と「個人年金保険料控除」の2つの区分です(旧制度には介護医療保険料控除の枠はありません)。
それぞれの控除について、年間の支払保険料等に応じた控除額の上限は以下のようになります。
所得税の控除額(各控除の種類ごと)
| 年間の支払保険料等 | 控除額 | | :--------------------- | :------------------- | | 2万5千円以下 | 支払保険料等の全額 | | 2万5千円超 5万円以下 | 支払保険料等 × 1/2 + 1万2千5百円 | | 5万円超 10万円以下 | 支払保険料等 × 1/4 + 2万5千円 | | 10万円超 | 一律 5万円 |
※所得税の控除合計額は、上記2種類の控除額(それぞれ最大5万円)の合計で、最大10万円です。
住民税の控除額(各控除の種類ごと)
| 年間の支払保険料等 | 控除額 | | :--------------------- | :------------------- | | 1万5千円以下 | 支払保険料等の全額 | | 1万5千円超 4万円以下 | 支払保険料等 × 1/2 + 7千5百円 | | 4万円超 7万円以下 | 支払保険料等 × 1/4 + 1万7千5百円 | | 7万円超 | 一律 3万5千円 |
※住民税の控除合計額は、上記2種類の控除額(それぞれ最大3万5千円)の合計で、最大7万円です。
例えば、年間10万円以上の個人年金保険料を支払っている場合、旧制度の個人年金保険料控除として所得税から5万円、住民税から3万5千円がそれぞれ所得から差し引かれます。
新旧両方の制度で契約がある場合
新旧両方の制度に基づく個人年金保険契約がある場合は、控除額の計算方法が少し複雑になります。
- 所得税: 新制度と旧制度それぞれの方法で計算した控除額を合計します。ただし、合計控除額の上限は12万円です。新制度の上限(4万円)と旧制度の上限(5万円)をそれぞれ適用し、合算した額が12万円を超えた場合は12万円となります。例えば、新制度で4万円、旧制度で5万円の個人年金保険料控除が計算できた場合、合計9万円が控除されます。
- 住民税: 新制度、旧制度それぞれで計算した控除額のうち、有利な方を選択できます。ただし、旧制度の個人年金保険料控除の上限は3万5千円、新制度は2万8千円、住民税の個人年金保険料控除の合計上限は2万8千円です。通常、新旧両方の契約がある場合は、旧制度の計算方法で算出した金額(最大3万5千円)を選択することが有利になることが多いです。ただし、住民税の生命保険料控除全体の合計上限は7万円です。
具体的にいくら節税になる?簡易シミュレーション
個人年金保険料控除による実際の節税額は、控除される金額と、ご自身の所得税率・住民税率によって決まります。所得税率は所得によって異なります。
所得税の速算表(例:令和5年分以降)
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 | | :--------------------- | :--- | :--------- | | 1,000円 から 195万円まで | 5% | 0円 | | 195万円超 330万円まで | 10% | 97,500円 | | 330万円超 695万円まで | 20% | 427,500円 | | 695万円超 900万円まで | 23% | 636,000円 | | 900万円超 1,800万円まで | 33% | 1,536,000円 | | 1,800万円超 4,000万円まで| 40% | 2,796,000円 | | 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
住民税率は通常一律10%(市町村民税6% + 都道府県民税4%)ですが、均等割など別途かかる費用があります。ここでは分かりやすく所得割分で考えます。
簡易シミュレーション例:
- 年間の個人年金保険料:年間12万円支払っている(新制度の契約)
- 個人年金保険料控除額(新制度上限):所得税 4万円、住民税 2.8万円
- あなたの所得税率:20%
- あなたの住民税率:10%
この場合、個人年金保険料控除によって控除される金額は、所得税の計算上4万円、住民税の計算上2.8万円です。これにより軽減される税金は、
- 所得税の軽減額:4万円 × 20% = 8,000円
- 住民税の軽減額:2.8万円 × 10% = 2,800円
- 合計節税額:8,000円 + 2,800円 = 10,800円
となります。年間12万円の保険料支払いに対して、年間10,800円の税金が戻ってくる、または安くなる可能性があるということです。これはあくまで一例であり、所得や他の控除の状況によって実際の税額は異なります。
既加入者が確認すべきポイントと手続き
既に個人年金保険に加入している方は、以下の点を確認し、忘れずに控除の手続きを行いましょう。
- 契約が控除の対象か確認: 保険証券を見るか、保険会社からの郵便物(特に生命保険料控除証明書)を確認してください。「個人年金保険料税制適格特約」が付加されているか、証明書に「個人年金保険料」として金額が記載されているかを確認します。
- 新制度・旧制度どちらか確認: 契約時期によって適用される制度が異なります。これも保険証券や控除証明書で確認できます。平成24年1月1日以降の契約は新制度、それ以前は旧制度です。
- 生命保険料控除証明書を準備: 年末調整や確定申告で個人年金保険料控除を受けるためには、「生命保険料控除証明書」が必要です。保険会社から毎年10月頃に送られてきますので、大切に保管しておきましょう。
- 年末調整または確定申告で申告:
- 会社員の方: 通常、年末調整で申告します。勤務先から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入し、生命保険料控除証明書を添付して提出します。
- 自営業者や、年末調整で申告し忘れた会社員の方: 確定申告で申告します。確定申告書に必要事項を記入し、生命保険料控除証明書を添付して提出します。
控除証明書を紛失した場合や、年末調整に間に合わなかった場合でも、確定申告期間中であれば申告が可能です。不明な点は保険会社や税務署に確認しましょう。
保障内容と節税効果のバランス
個人年金保険は、あくまで老後の資金準備を目的とした保険であり、その主たる役割は将来の年金受け取りです。節税効果はその付帯的なメリットとして捉えることが大切です。
節税メリットを最大化するために必要以上の保険料を支払ったり、ご自身のライフプランやリスクに合わない保障内容の保険に加入することは、本来の目的から外れてしまう可能性があります。保障内容、将来の年金受取額、保険料負担、そして節税効果のバランスを総合的に考慮して検討することが重要です。
税制改正の可能性と専門家への相談
税法は将来的に変更される可能性があります。この記事で解説している内容は、令和5年分以降の所得税等に関する情報に基づいていますが、今後の税制改正によって変更されることも考えられます。
また、ご自身の所得や他の保険契約、住宅ローン控除など様々な要因によって、実際の税負担や最適な対応は異なります。より正確な情報やご自身の具体的な状況については、必ず税務署や税理士などの専門家にご確認ください。
まとめ:個人年金保険料控除を活用して賢く税負担を軽減する
個人年金保険料控除は、個人年金保険を活用した老後資金の準備をしながら、同時に税金(所得税・住民税)の負担を軽減できる有効な制度です。
ご自身の個人年金保険契約が控除の対象であるか、新旧どちらの制度が適用されるかを確認し、毎年送られてくる生命保険料控除証明書を使って、年末調整や確定申告でしっかりと申告しましょう。
節税効果は家計の助けとなりますが、最も大切なのはご自身のライフプランに合った保険を選ぶことです。保障内容と節税効果の両方を考慮し、計画的な老後資金の準備を進めていただければ幸いです。