あなたの保険契約で節税額を再確認!年末調整・確定申告に向けたチェックリストと計算方法
はじめに:年末調整・確定申告前に保険の節税効果を確認しましょう
毎年、年末調整や確定申告の時期が近づくと、「生命保険料控除」という言葉を耳にする機会が増えるのではないでしょうか。多くの保険契約には、税金が安くなる「節税効果」があります。特に、生命保険や医療保険、個人年金保険などは、支払った保険料に応じて所得税や住民税の計算のもととなる金額(これを「課税所得」といいます)から一定額を差し引くことができ、結果として税負担を軽減することができます。
あなたは、ご自身の保険契約が具体的にどのくらい節税になっているかをご存知でしょうか。既に保険に加入されている方でも、契約内容の全てを把握していたり、正確な節税効果を計算できていたりする方は少ないかもしれません。
この記事では、年末調整や確定申告の準備を始めるにあたり、ご自身の保険契約がどのくらい節税に繋がるのかを再確認するための具体的なステップと、簡易的な計算方法を分かりやすく解説します。この記事を通じて、あなたの保険契約の価値を税金の面からも理解し、賢く節税に役立てるための一歩を踏み出しましょう。
保険による節税の仕組み:生命保険料控除とは
保険契約で所得税や住民税が安くなる仕組みの中心にあるのが、「生命保険料控除」という制度です。これは、年間で支払った生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料などの合計額に応じて、その年の所得から一定額が差し引かれる制度です。所得から差し引かれる金額を「所得控除」といい、生命保険料控除はその所得控除の一つです。
所得から所得控除が差し引かれることで、税金がかかる対象となる金額(課税所得)が減り、結果として税額が安くなる、という流れです。
生命保険料控除には、以下の3つの区分があります。
- 一般生命保険料控除: 死亡保険や学資保険など、生存または死亡に際して保険金が支払われる保険などが対象です。
- 介護医療保険料控除: 医療保険やがん保険、介護保険など、病気や怪我、介護を事由として保険金が支払われる保険などが対象です。
- 個人年金保険料控除: 所定の要件を満たす個人年金保険などが対象です。
ご自身が加入している保険がどの区分に該当するかは、保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」で確認することができます。
あなたの保険契約の節税効果を再確認するステップ
それでは、実際にあなたの保険契約の節税効果を再確認してみましょう。以下のステップに沿って進めてみてください。
ステップ1:必要な書類を準備する
まずは、お手元に以下の書類をご準備ください。
- 保険証券: 加入している保険契約の内容が記載されています。契約時期や保険種類を確認するために使います。
- 生命保険料控除証明書: 毎年秋頃に保険会社から送られてくるハガキや書類です。その年に支払った(または支払う予定の)保険料の合計額、控除の区分(一般、介護医療、個人年金)、そして「新制度」か「旧制度」かの区別などが記載されています。年末調整や確定申告の手続きで必須となる書類です。
ステップ2:どの保険がどの控除の対象かを確認する
準備した書類を見て、加入している各保険契約がどの生命保険料控除の区分(一般、介護医療、個人年金)に該当するかを確認します。これは生命保険料控除証明書を見ればすぐに分かります。
また、生命保険料控除には、平成24年1月1日以後に締結した保険契約等に適用される「新制度」と、平成23年12月31日以前に締結した保険契約等に適用される「旧制度」があります。どちらの制度が適用されるかによって、控除額の上限が異なります。これも控除証明書に記載されていますのでご確認ください。
ステップ3:年間支払保険料を確認する
生命保険料控除証明書には、その保険契約についてその年に支払った保険料の合計額が記載されています。複数の保険会社と契約している場合や、一つの保険会社で複数の契約をしている場合は、それぞれの保険契約ごとに送られてくる控除証明書を確認し、区分(一般、介護医療、個人年金)ごとに年間支払保険料を合計します。
ステップ4:生命保険料控除額を計算する
ステップ3で確認した年間支払保険料の合計額をもとに、生命保険料控除額を計算します。計算方法は新制度と旧制度で異なります。
【新制度の計算方法(平成24年1月1日以後に締結した契約)】
年間支払保険料等に応じて、以下の計算式で計算します。各区分(一般、介護医療、個人年金)ごとに計算した控除額には上限があります。
- 年間支払保険料等が2万円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が2万円超4万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 1万円
- 年間支払保険料等が4万円超8万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 2万円
- 年間支払保険料等が8万円超の場合:一律4万円
所得税の控除額は、上記の計算式で求めた各区分(一般、介護医療、個人年金)ごとの金額(それぞれ上限4万円)を合計した額となります。合計額の上限は12万円です。
住民税の控除額は、所得税とは計算式と上限が異なります。
- 年間支払保険料等が1.2万円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が1.2万円超3.2万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 0.6万円
- 年間支払保険料等が3.2万円超5.6万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 1.4万円
- 年間支払保険料等が5.6万円超の場合:一律2.8万円
住民税の控除額は、上記の計算式で求めた各区分(一般、介護医療、個人年金)ごとの金額(それぞれ上限2.8万円)を合計した額となります。合計額の上限は7万円です。
【旧制度の計算方法(平成23年12月31日以前に締結した契約)】
旧制度では、「一般生命保険料控除」と「個人年金保険料控除」の2区分のみです。介護医療保険料控除はありません。
- 年間支払保険料等が2.5万円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が2.5万円超5万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 1.25万円
- 年間支払保険料等が5万円超10万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 2.5万円
- 年間支払保険料等が10万円超の場合:一律5万円
所得税の控除額は、上記の計算式で求めた各区分(一般、個人年金)ごとの金額(それぞれ上限5万円)を合計した額となります。合計額の上限は10万円です。
住民税の控除額は、以下の計算式です。
- 年間支払保険料等が2万円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が2万円超5万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 1万円
- 年間支払保険料等が5万円超10万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 2.5万円
- 年間支払保険料等が10万円超の場合:一律3.5万円
住民税の控除額は、上記の計算式で求めた各区分(一般、個人年金)ごとの金額(それぞれ上限3.5万円)を合計した額となります。合計額の上限は7万円です。
【新旧両方の契約がある場合】
新制度と旧制度の両方の契約がある場合、一般生命保険料控除と個人年金保険料控除については、以下のいずれかを選択して申告することができます。
- 旧制度の計算方法で計算した控除額(上限10万円)
- 新制度の計算方法で計算した控除額(上限12万円)
- 旧制度と新制度のそれぞれの計算方法で計算した控除額を合計した額(ただし、所得税は上限12万円、住民税は上限7万円)
通常は3.の合計額が有利になることが多いですが、合計額が上限を超える場合は上限額となります。介護医療保険料控除は、旧制度にはありませんので、新制度の契約分のみが控除の対象となります。
ステップ5:控除額から具体的な節税額の目安を計算する
ステップ4で計算した生命保険料控除額をもとに、具体的な節税額の目安を計算します。節税額は、生命保険料控除額に、ご自身の所得税率と住民税率をかけた金額の合計となります。
- 所得税の節税額目安 = 所得税の生命保険料控除額 × ご自身の所得税率
- 住民税の節税額目安 = 住民税の生命保険料控除額 × ご自身の住民税率(一律10%の場合が多い)
ご自身の所得税率は、所得金額によって異なります。年末調整のお知らせや源泉徴収票などで確認できます。住民税率は、一般的に一律10%ですが、お住まいの自治体によって異なる場合もあります。
【簡易シミュレーション例】
例として、以下の条件で節税額を計算してみましょう。(税率は例示であり、実際の税率とは異なります)
- 新制度の契約のみ
- 年間支払保険料:
- 一般生命保険料:3万円
- 介護医療保険料:2万円
- 個人年金保険料:3万円
- 年間支払保険料合計:8万円
- ご自身の所得税率:20%
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ご自身の住民税率:10%
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所得税の控除額計算:
- 一般:3万円 (8万円以下なので 3万円)
- 介護医療:2万円 (4万円以下なので 2万円)
- 個人年金:3万円 (4万円以下なので 3万円)
- 所得税控除額合計:3万 + 2万 + 3万 = 8万円 (上限12万円内)
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住民税の控除額計算:
- 一般:3万円 → 3万円 × 1/2 + 0.6万円 = 2.1万円 (5.6万円以下なので 2.1万円)
- 介護医療:2万円 → 2万円 (1.2万円超 なので 2万円 × 1/2 + 0.6万円 = 1.6万円) 訂正:2万円は1.2万円超3.2万円以下なので、2万円 × 1/2 + 0.6万円 = 1.6万円
- 個人年金:3万円 → 3万円 × 1/2 + 0.6万円 = 2.1万円 (5.6万円以下なので 2.1万円)
- 住民税控除額合計:2.1万 + 1.6万 + 2.1万 = 5.8万円 (上限7万円内) 訂正:計算を再確認し、より分かりやすく示す
住民税の控除額計算(再): * 一般:年間3万円支払 → 3万円は1.2万円超3.2万円以下の範囲なので、3万円 × 1/2 + 0.6万円 = 1.5万 + 0.6万 = 2.1万円 * 介護医療:年間2万円支払 → 2万円は1.2万円超3.2万円以下の範囲なので、2万円 × 1/2 + 0.6万円 = 1万 + 0.6万 = 1.6万円 * 個人年金:年間3万円支払 → 3万円は1.2万円超3.2万円以下の範囲なので、3万円 × 1/2 + 0.6万円 = 1.5万 + 0.6万 = 2.1万円 * 住民税控除額合計:2.1万円 + 1.6万円 + 2.1万円 = 5.8万円 (上限7万円内)
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節税額目安の計算:
- 所得税節税額目安:8万円(控除額) × 20%(税率) = 16,000円
- 住民税節税額目安:5.8万円(控除額) × 10%(税率) = 5,800円
- 合計節税額目安:16,000円 + 5,800円 = 21,800円
この例の場合、年間8万円の保険料支払いで、合計約21,800円の税金が安くなる可能性がある、ということになります。
確認時の注意点と見直しのヒント
ご自身の保険契約の節税効果を確認する際に、いくつか注意しておきたい点があります。
- 控除証明書の紛失: 生命保険料控除を申告するには、原則として保険会社が発行する控除証明書が必要です。もし紛失してしまった場合は、保険会社に再発行を依頼しましょう。多くの場合、インターネットや電話で手続きが可能です。
- 複数契約の合計額: 複数の保険に加入している場合、それぞれの保険会社から控除証明書が送られてきます。忘れずに全ての証明書を集め、区分ごとに年間支払保険料を合計して計算することが重要です。合計額が上限を超えない範囲で、最大限の控除を受けることができます。
- 新旧制度の適用: 契約した時期によって適用される制度が異なります。新旧両方の契約がある場合は、最も有利な計算方法を選択する必要があります。
- 保障内容とのバランス: 節税効果は保険を選ぶ上でのメリットの一つですが、最も重要なのはご自身やご家族に必要な保障内容が得られているかという点です。節税効果ばかりを追求して、必要な保障が不足したり、反対に過剰な保障になったりしないよう、バランスの取れた検討が必要です。
- 税法改正の可能性: 税法は将来的に変更される可能性があります。また、ご自身の状況(所得金額、他の所得控除の有無など)によって、節税効果は異なります。
まとめ:保険契約の節税効果を把握して賢く手続きを進めましょう
この記事では、年末調整や確定申告に向けて、あなたの保険契約が持つ節税効果を再確認するためのステップと、簡易的な計算方法をご紹介しました。
ご自身の保険契約書や控除証明書を確認し、年間支払保険料を集計し、生命保険料控除額、そして具体的な節税額の目安を計算する一連の流れを理解できたのではないでしょうか。この情報を把握しておくことは、年末調整や確定申告をスムーズに行うためだけでなく、ご自身の家計における保険の役割や価値を理解する上でも非常に役立ちます。
計算方法や税制は少し複雑に感じられるかもしれませんが、お手元の書類を見ながら一つずつ確認していけば、必ず理解できるはずです。
ただし、税に関する個別の判断や、より詳細な節税対策については、ご自身の具体的な状況に応じて、税務署や税理士などの専門家にご確認いただくことを強くお勧めします。
あなたの保険契約が持つ「節税」というもう一つの価値をしっかりと把握し、賢く手続きを進めていきましょう。