なぜ違う?保険料控除による所得税と住民税の節税額の仕組みと計算例
あなたの保険料控除、所得税と住民税で節税額が違うのはなぜ?
生命保険や医療保険などに加入している方が利用できる「保険料控除」は、所得税と住民税の計算において、支払った保険料に応じて税負担を軽減できる重要な制度です。しかし、この保険料控除による節税額は、所得税と住民税で異なる場合があります。
なぜ同じ保険料控除なのに、所得税と住民税で節税額が違ってくるのでしょうか。この記事では、その理由と具体的な計算方法、そしてご自身の節税効果を確認する際のポイントを分かりやすく解説します。保険料控除を正しく理解し、賢く税負担を軽減するための一助となれば幸いです。
保険料控除とは?所得税と住民税の基本的な違い
保険料控除とは、所得から一定の金額を差し引くことができる「所得控除」の一種です。これにより、課税対象となる所得(税金がかかる所得)が減少し、結果として税金が安くなります。
保険料控除には主に以下の種類があります。
- 生命保険料控除: 一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の3種類に分かれます。
- 地震保険料控除: 地震保険の保険料が対象です。
これらの控除を適用することで、所得税と住民税が軽減されます。しかし、所得税と住民税はそれぞれ別の税金であり、計算方法や控除額の上限などが異なります。
- 所得税: 国に納める国税です。1年間の所得に対して課税され、税率は所得に応じて段階的に高くなります(累進課税)。
- 住民税: お住まいの都道府県や市区町村に納める地方税です。通常は前年の所得に基づいて課税され、「所得割」と「均等割」から構成されます。保険料控除が影響するのは主に所得割の部分です。
所得税と住民税では、同じ保険料控除であっても、税金を計算する上で控除できる金額の上限が異なるため、結果として節税額に違いが生じるのです。
各保険料控除による所得税・住民税の控除額上限
生命保険料控除には、「新制度」と「旧制度」があり、加入した保険契約の時期によって適用される制度が異なります。ここでは主に2012年1月1日以後に契約した保険に適用される「新制度」を例に、所得税と住民税の控除額上限の違いを見てみましょう。旧制度については、後述の注意点などで触れます。
| 控除の種類 | 年間支払保険料の金額 | 所得税からの控除額上限 | 住民税からの控除額上限 | | :---------------- | :----------------------- | :------------------- | :------------------- | | 新制度 | | | | | 一般生命保険料控除 | 2万円以下 | 支払保険料全額 | 支払保険料全額 | | | 2万円超 4万円以下 | 支払保険料 × 0.5 + 1万円 | 支払保険料 × 0.75 + 0.5万円 | | | 4万円超 8万円以下 | 支払保険料 × 0.25 + 2万円 | 支払保険料 × 0.5 + 1.5万円 | | | 8万円超 | 4万円 | 2.8万円 | | 介護医療保険料控除 | 8万円超 | 4万円 | 2.8万円 | | 個人年金保険料控除 | 8万円超 | 4万円 | 2.8万円 | | 各控除の合計 | (所得税:12万円、住民税:7万円が上限) | | |
上記表から分かるように、新制度では、一般生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除のそれぞれにおいて、所得税の控除額上限は年間4万円であるのに対し、住民税の控除額上限は年間2.8万円となっています。
また、複数の種類の控除を合計する場合の控除額上限も異なります。
- 所得税: 一般、介護医療、個人年金のそれぞれの控除を合計して最大12万円まで控除可能です(各控除の上限は4万円)。
- 住民税: 一般、介護医療、個人年金のそれぞれの控除を合計して最大7万円まで控除可能です(各控除の上限は2.8万円)。
このように、所得税と住民税では、個別の控除の上限額および全体の合計控除額の上限が異なるため、支払った保険料の金額によっては、住民税で適用される控除額の方が所得税よりも少なくなるのです。
(参考:旧制度の場合) 2011年12月31日以前に契約した保険に適用される旧制度の場合も、所得税と住民税で控除額の上限が異なります。旧制度には一般生命保険料控除と個人年金保険料控除があり、それぞれの控除額上限は所得税で5万円、住民税で3.5万円です。旧制度の合計控除額上限は、所得税10万円、住民税7万円となります。新制度と旧制度の両方の契約がある場合は、それぞれの方法で計算した控除額を合算しますが、所得税の合計控除額上限は12万円、住民税の合計控除額上限は7万円となります。
具体的な計算例で見る節税効果の違い
実際の保険料支払額に基づいて、所得税と住民税でどのくらい控除額が変わり、税金が軽減されるかを見てみましょう。ここでは新制度の契約のみを想定します。
例1:年間8万円の一般生命保険料を支払っている場合
- 所得税: 支払保険料8万円は上限額(4万円)を超えているため、控除額は4万円です。
- 住民税: 支払保険料8万円は上限額(2.8万円)を超えているため、控除額は2.8万円です。
この場合、所得税では4万円、住民税では2.8万円が課税所得から差し引かれることになります。
例2:年間5万円の一般生命保険料と、年間3万円の介護医療保険料を支払っている場合
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所得税:
- 一般生命保険料控除:支払保険料5万円 → 控除額は「支払保険料 × 0.25 + 2万円」の計算式で計算します。5万円 × 0.25 + 2万円 = 1.25万円 + 2万円 = 3.25万円(上限4万円以下)
- 介護医療保険料控除:支払保険料3万円 → 控除額は「支払保険料 × 0.5 + 1万円」の計算式で計算します。3万円 × 0.5 + 1万円 = 1.5万円 + 1万円 = 2.5万円(上限4万円以下)
- 合計控除額:3.25万円 + 2.5万円 = 5.75万円(上限12万円以下) → 所得税からの合計控除額は5.75万円です。
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住民税:
- 一般生命保険料控除:支払保険料5万円 → 控除額は「支払保険料 × 0.5 + 1.5万円」の計算式で計算します。5万円 × 0.5 + 1.5万円 = 2.5万円 + 1.5万円 = 4万円(上限2.8万円を超えるため、控除額は2.8万円)
- 介護医療保険料控除:支払保険料3万円 → 控除額は「支払保険料 × 0.75 + 0.5万円」の計算式で計算します。3万円 × 0.75 + 0.5万円 = 2.25万円 + 0.5万円 = 2.75万円(上限2.8万円以下)
- 合計控除額:2.8万円 + 2.75万円 = 5.55万円(上限7万円以下) → 住民税からの合計控除額は5.55万円です。
この例2の場合、所得税からは5.75万円、住民税からは5.55万円が控除されることになり、ここでも控除額に違いが生じます。
実際に税金がどのくらい軽減されるかは、上記の控除額に、ご自身の所得税率と住民税率(所得割の税率)を掛け合わせることで概算できます。所得税率は所得額によって異なり、住民税の所得割の税率は通常一律10%です。
例2の税軽減額概算(所得税率20%、住民税率10%の場合)
- 所得税の軽減額:控除額5.75万円 × 所得税率20% = 1.15万円
- 住民税の軽減額:控除額5.55万円 × 住民税率10% = 0.555万円
この合計(1.15万円 + 0.555万円 = 約1.7万円)が年間の税負担軽減額の目安となります。同じ保険料控除でも、適用される控除額と税率の違いから、所得税と住民税で軽減額が異なることが分かります。
既に保険加入している方が確認すべきポイント
ご自身が加入している保険契約でどのくらい節税できているか、また今後どのくらい節税できる可能性があるかを知るために、以下の点を確認してみましょう。
- 保険料控除証明書を確認する: 毎年秋頃に保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」には、その年に支払った保険料の額と、それが一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料のいずれに該当するかが記載されています。また、新制度・旧制度の区分も確認できます。この証明書を見れば、ご自身の契約がどの控除の対象になるか、年間いくら支払っているかが正確に分かります。
- 新制度・旧制度の確認: 保険契約の時期が2011年12月31日以前か、2012年1月1日以後かによって、適用される控除制度が異なります。古い契約がある場合は、旧制度の上限額も考慮に入れる必要があります。
- 控除額の上限に達しているか確認: 支払っている保険料が、所得税や住民税それぞれの控除額上限(新制度:各4万円/2.8万円、合計12万円/7万円)に達しているか確認しましょう。既に上限まで利用している場合は、その保険料控除によるさらなる節税効果は限定的になります。
- 他の控除との合計を確認: 生命保険料控除以外にも、地震保険料控除やiDeCo(確定拠出年金)、ふるさと納税など、様々な所得控除や税額控除があります。これらを総合的に考慮することで、全体の税負担軽減額を把握できます。
節税効果だけでなく、保障内容とのバランスも大切
保険料控除による節税は、家計改善の一つの有効な手段です。所得税と住民税で控除額が異なることを理解することで、より正確な節税効果を把握することができます。
しかし、保険は本来、万が一のリスクに備えるための保障としての役割が最も重要です。節税効果だけを追求して、ご自身やご家族に必要な保障が不足してしまっては本末転倒です。
ご自身のライフプランや家族構成、収入状況などを考慮し、必要な保障を確保した上で、保険料控除による節税メリットも最大限に活用するというバランスの取れた視点を持つことが大切です。保険の見直しを検討する際は、保障内容と保険料、そして節税効果の全てを総合的に比較検討することをお勧めします。
まとめ
この記事では、保険料控除による所得税と住民税の節税額が異なる理由として、それぞれの税金で適用される控除額の上限が異なることを解説しました。特に新制度においては、所得税よりも住民税の方が個別の控除および合計の控除額上限が低く設定されています。
ご自身の正確な保険料控除額や節税額を知るためには、お手元の保険料控除証明書を確認し、ご自身の年間保険料支払額と照らし合わせて計算してみることが重要です。
税法は将来的に変更される可能性があります。最新の情報やご自身の具体的な状況については、必ず税務署や税理士などの専門家にご確認ください。