あなたの複数契約、生命保険料控除はどう計算する?合計額と注意点
複数の生命保険に加入している方の生命保険料控除
生命保険は、万が一の事態や将来の備えとして多くの方が加入されています。そして、保険料を支払うことで税金の負担を軽減できる「生命保険料控除」という制度があることはご存知の方も多いかもしれません。
しかし、複数の生命保険会社で契約していたり、保障内容の異なる複数の保険に加入していたりする場合、「私の保険料控除はどのように計算されるのだろう」「いくらまで控除を受けられるのだろう」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、複数の生命保険契約がある場合の生命保険料控除の計算方法と、既にご加入されている方が確認すべきポイントについて解説します。
生命保険料控除の仕組みをおさらい
複数の契約がある場合の計算方法を理解するために、まずは生命保険料控除の基本的な仕組みを簡単におさらいしましょう。
生命保険料控除は、1月1日から12月31日までの1年間に支払った保険料に応じて、所得税や住民税の計算時に一定の金額を所得から差し引くことができる制度です。所得から差し引かれる金額が大きいほど、税金の計算の基となる所得が少なくなり、結果として税負担が軽くなります。
この控除の対象となる保険契約は、主に以下の3つの区分に分けられます。
- 一般生命保険料控除: 死亡保険や学資保険、終身保険、定期保険など、主に死亡や生存に関わる保険が対象です。
- 介護医療保険料控除: 医療保険やがん保険、介護保険など、入院・通院・手術・介護などに備える保険が対象です。
- 個人年金保険料控除: 個人年金保険のうち、税制適格特約が付加された契約が対象です。
これらの区分ごとに、支払った保険料に応じた控除額が計算されます。
また、生命保険料控除には「新制度」と「旧制度」があります。多くの場合、平成24年1月1日以降に契約した保険は新制度、それ以前に契約した保険は旧制度の対象となります。それぞれで控除額の計算方法や上限額が異なります。
複数契約がある場合の計算方法
ここからが本題です。複数の保険契約がある場合、生命保険料控除はどのように計算するのでしょうか。ポイントは、「同じ区分」かつ「同じ制度(新旧)」の保険料を合算して計算するということです。
同じ区分・同じ制度で複数契約がある場合
例えば、新制度の一般生命保険料控除の対象となる死亡保険と、同じく新制度の一般生命保険料控除の対象となる学資保険に加入しているとします。この場合、それぞれの保険契約で支払った1年間の保険料を合計して、新制度の一般生命保険保険料控除額を計算します。
計算例1:新制度の一般生命保険料控除の対象となる契約が2つある場合
- 契約A(死亡保険):年間保険料 5万円
- 契約B(学資保険):年間保険料 3万円
- 合計年間保険料:5万円 + 3万円 = 8万円
新制度の一般生命保険料控除の計算式に、合計した8万円を当てはめて控除額を計算します。新制度の場合、年間保険料が8万円以上であれば、所得税の控除額は最大の4万円、住民税の控除額は最大の2.8万円となります。この例では、年間保険料が8万円なので、所得税4万円、住民税2.8万円の控除が受けられることになります。
異なる区分で複数契約がある場合
一般生命保険、介護医療保険、個人年金保険など、異なる区分の保険に複数加入している場合です。この場合は、それぞれの区分ごとに先ほど説明した計算方法で控除額を計算します。そして、算出された各区分の控除額を合計したものが、生命保険料控除として所得から差し引かれる総額になります。
計算例2:新制度の3つの区分すべてに契約がある場合
- 一般生命保険料控除の対象となる契約:年間保険料の合計 8万円 → 所得税の控除額:4万円、住民税の控除額:2.8万円
- 介護医療保険料控除の対象となる契約:年間保険料の合計 6万円 → 所得税の控除額:4万円、住民税の控除額:2.8万円
- 個人年金保険料控除の対象となる契約:年間保険料の合計 7万円 → 所得税の控除額:4万円、住民税の控除額:2.8万円
この方が受けられる生命保険料控除額の合計は、各区分の控除額を合算します。
- 所得税の生命保険料控除額合計:4万円(一般)+ 4万円(介護医療)+ 4万円(個人年金)= 12万円
- 住民税の生命保険料控除額合計:2.8万円(一般)+ 2.8万円(介護医療)+ 2.8万円(個人年金)= 8.4万円
新制度の場合、所得税は年間最大12万円、住民税は年間最大8.4万円の生命保険料控除が受けられる可能性があります。
新旧制度の契約が混在する場合
最も複雑に感じられるのが、同じ区分の中に新制度と旧制度の両方の契約がある場合です。例えば、一般生命保険料控除の対象となる保険で、新制度の契約と旧制度の契約の両方に加入しているケースです。
この場合、計算方法は主に以下のいずれか有利な方を選択できます。
- 旧制度の計算方法のみを適用: 旧制度の対象となる年間保険料の合計額で計算し、旧制度の上限額(所得税5万円、住民税3.5万円)を適用します。
- 新制度の計算方法のみを適用: 新制度の対象となる年間保険料の合計額で計算し、新制度の上限額(所得税4万円、住民税2.8万円)を適用します。
- 新旧両方の制度で計算し合算(合算適用): 旧制度の対象となる年間保険料の合計額で計算した控除額と、新制度の対象となる年間保険料の合計額で計算した控除額を合算します。ただし、合算して適用する場合の控除額には上限(所得税4万円、住民税2.8万円)があります。
一般的には、保険料の金額に応じて最も控除額が大きくなる計算方法を選択することになります。保険料控除証明書には、新旧制度ごとの支払保険料額が記載されていますので、それを見ながら計算すると良いでしょう。
計算例3:一般生命保険料控除で新旧両方の契約がある場合
- 旧制度の一般生命保険料:年間保険料 6万円
-
新制度の一般生命保険料:年間保険料 3万円
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旧制度のみで計算:旧制度保険料6万円 → 所得税の控除額 5万円(上限)
- 新制度のみで計算:新制度保険料3万円 → 所得税の控除額 3万円
- 新旧合算で計算: 旧制度保険料6万円に対する控除額 5万円(旧制度の上限) 新制度保険料3万円に対する控除額 3万円 合算額:5万円 + 3万円 = 8万円 → 合算適用での控除額は、新制度の上限である4万円が適用されます。
この場合、1.の旧制度のみで計算した5万円が最も控除額が大きいため、所得税の一般生命保険料控除額は5万円となります。このように、複数の契約がある場合は、制度や区分を分けて計算し、適切な合計額を把握することが重要です。
既加入者が確認すべきポイント
現在複数の生命保険にご加入中の方が、ご自身の生命保険料控除額を把握し、手続きを行うために確認すべき点をまとめました。
- 保険料控除証明書を確認する: 毎年秋ごろに各保険会社から送られてくる「保険料控除証明書」を必ず確認しましょう。この証明書には、1月1日から12月31日までに支払った保険料の見込み額や確定額、そしてその保険契約がどの区分(一般・介護医療・個人年金)に該当し、新制度か旧制度かの区分も記載されています。
- 複数の証明書をすべて保管する: 複数の保険会社や複数の契約で証明書が届く場合は、それらすべてを年末調整や確定申告の手続きに使用しますので、まとめて保管してください。
- 区分と制度ごとに保険料を合算する: お手元に届いた複数の証明書を見ながら、先ほど解説したように「同じ区分」かつ「同じ制度」の保険料をそれぞれ合算して計算します。
- 年末調整や確定申告で正しく申告する: 勤務先の年末調整で申告する場合は、保険料控除申告書に必要事項を記入し、すべての保険料控除証明書を添付して提出します。確定申告で申告する場合は、申告書に記入し、証明書を添付して税務署に提出します。複数の証明書がある場合でも、申告書に各契約の保険料額をまとめて記入し、証明書を添付すれば問題ありません。
保険料控除証明書に記載されている金額や区分が分からない場合は、契約している保険会社に問い合わせて確認することも可能です。
まとめ
複数の生命保険契約がある場合でも、生命保険料控除は「区分ごと」「制度ごと」に保険料を合算して計算することができます。一般生命保険、介護医療保険、個人年金保険の各区分にはそれぞれ控除額の上限があり、また新旧制度によっても計算方法や上限額が異なります。
お手元の保険料控除証明書をすべて確認し、ご自身の契約がどの区分、どの制度に該当するのか、年間いくらの保険料を支払っているのかを正確に把握することが、正しい控除額を計算するための第一歩です。
ご自身の保険契約内容と照らし合わせながら、この記事でご紹介した計算方法を参考に、控除額をご確認いただければ幸いです。
税法は将来的に変更される可能性があります。最新の情報やご自身の具体的な状況については、必ず税務署や税理士などの専門家にご確認ください。