医療保険に入っているあなたへ:医療費控除と保険料控除の違い、仕組みを分かりやすく解説
医療保険に入っているあなたへ:医療費控除と保険料控除の違い、仕組みを分かりやすく解説
医療保険に加入されている方のなかには、「医療保険に入っているから、何か税金に関係するのだろうか」「医療費控除と何か関係があるのだろうか」と疑問に思われている方がいらっしゃるかもしれません。
医療保険は、たしかに税金の控除と関係があります。しかし、医療保険と関係があるのは「医療費控除」だけではありません。そして、「医療費控除」は、医療保険料そのものが対象となる控除ではないため、注意が必要です。
このページでは、医療保険に関係する税金の控除について、特に混同されやすい「医療費控除」と「保険料控除(介護医療保険料控除)」の違いや仕組みを分かりやすく解説します。ご自身の保険でどのような税制優遇が受けられるのか、確認する際の参考にしていただけますと幸いです。
医療保険が関係する2種類の控除
医療保険に関連する税金の控除には、主に以下の2種類があります。
- 介護医療保険料控除:支払った医療保険の保険料が対象となる控除
- 医療費控除:実際に支払った医療費が対象となる控除
ご覧の通り、この2つは「何が控除の対象になるか」が全く異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 介護医療保険料控除とは?(保険料が対象)
介護医療保険料控除は、所得控除の一種です。所得控除とは、1年間の所得から一定の金額を差し引くことができる制度で、所得税や住民税の計算において、税金がかかる対象となる所得(これを「課税所得」と呼びます)を減らす効果があります。課税所得が減れば、結果として納める税金(所得税・住民税)も少なくなるため、「節税」につながるのです。
介護医療保険料控除の対象となる保険
この控除の対象となるのは、特定の医療保険や介護保険の年間支払保険料です。具体的には、入院給付金や退院給付金、手術給付金、先進医療給付金、通院給付金など、病気やケガの医療費に備えるための保険や、介護保障を目的とした保険などが該当します。ご自身が加入している保険が対象となるかは、保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」で確認できます。証明書に「介護医療保険料」という区分に金額が記載されていれば、その保険料が対象です。
介護医療保険料控除による節税額
介護医療保険料控除で所得から差し引ける金額(控除額)には上限があります。現在の制度(新制度)では、1年間に支払った介護医療保険料に応じて、以下の金額が所得から控除されます。
| 年間の支払保険料等 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 | | :----------------- | :------------- | :------------- | | ~12,000円 | 支払保険料等の全額 | 支払保険料等の全額 | | 12,001円~32,000円 | 支払保険料等×1/2+6,000円 | 支払保険料等×1/2+6,000円 | | 32,001円~56,000円 | 支払保険料等×1/4+14,000円 | 支払保険料等×1/4+14,000円 | | 56,001円以上 | 一律40,000円 | 一律28,000円 |
例えば、年間8万円の介護医療保険料を支払っている場合、所得税からは4万円、住民税からは2.8万円が控除されます。この控除額に、ご自身の所得税率と住民税率(原則10%)を掛け合わせることで、おおよその節税額を知ることができます。
- 簡易的な計算例:
- 年間支払保険料:80,000円
- 所得税の控除額:40,000円
- 住民税の控除額:28,000円
- 所得税率:仮に20%(所得によって税率は異なります)
- 住民税率:仮に10%
- 所得税の節税額: 40,000円 × 20% = 8,000円
- 住民税の節税額: 28,000円 × 10% = 2,800円
- 合計節税額: 8,000円 + 2,800円 = 10,800円
このように、介護医療保険料控除は、支払った保険料に応じて所得税と住民税の負担を軽減する効果があります。
2. 医療費控除とは?(医療費が対象)
医療費控除も所得控除の一種で、1年間に一定額以上の医療費を支払った場合に、所得からその金額を差し引くことができる制度です。こちらも介護医療保険料控除と同様、課税所得を減らし、所得税・住民税の負担を軽減する効果があります。
医療費控除の対象となる費用
医療費控除の対象となるのは、病気やケガの治療のために実際に支払った費用です。具体的には、医師や歯科医師による診療・治療費、治療に必要な医薬品の購入費、入院費用、通院のための交通費などが該当します。美容目的の整形費用や、健康増進のためのサプリメント購入費などは対象外です。
医療費控除額の計算方法
医療費控除で所得から差し引ける金額は、以下の計算式で求めます。
実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補填される金額 − 10万円(または所得金額の5%のいずれか少ない金額)
控除できる金額の上限は200万円です。
ここでポイントとなるのが、「保険金などで補填される金額」を差し引く必要がある点です。医療保険から入院給付金や手術給付金などを受け取った場合、その給付金は、受け取った医療費を補填するものとみなされます。したがって、支払った医療費から、この保険金などで補填された金額を差し引いて計算します。
- 簡易的な計算例:
- 1年間に支払った医療費の合計額:50万円
- 医療保険から受け取った給付金:30万円
- 所得金額の5%:仮に20万円(所得金額が400万円の場合)
- 医療費控除額: 50万円(支払った医療費) − 30万円(給付金) − 10万円 = 10万円
- (所得金額の5%である20万円より10万円の方が少ないため、10万円を差し引きます)
この例の場合、10万円が所得から控除されます。この控除額に所得税率と住民税率を掛け合わせた金額がおおよその節税額となります。
医療保険と医療費控除、保険料控除の違いまとめ
| 項目 | 医療費控除 | 介護医療保険料控除 | | :------------------- | :----------------------------------- | :----------------------------------- | | 控除の対象 | 実際に支払った医療費 | 支払った医療保険・介護保険の保険料 | | 目的 | 過大な医療費負担を軽減するため | 保険加入による自助努力を促進するため | | 適用される条件 | 1年間に一定額以上の医療費を支払った場合 | 対象となる保険に加入し、保険料を支払った場合 | | 計算時の注意点 | 保険金などで補填される金額を差し引く | 特に大きな注意点はない(支払額に応じた計算) | | 証明書類 | 医療費の領収書、保険会社からの給付金支払明細書など | 保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」 | | 申告方法 | 確定申告(必須) | 年末調整または確定申告 |
このように、医療保険は「介護医療保険料控除」の対象となることで、保険料支払いの時点で節税効果が得られる可能性があります。一方、「医療費控除」は、病気やケガで実際に医療費を支払った年において、支払った医療費から保険金などを差し引いた残額が対象となる控除です。
「医療保険に入っているから医療費控除を申請できる」と単純に考えるのではなく、「医療保険料は介護医療保険料控除の対象になる可能性がある」こと、そして「実際に医療費をたくさん支払った年には、医療保険の給付金を受け取ったとしても、その給付金を差し引いた残りの医療費が医療費控除の対象になる可能性がある」というように、それぞれの制度を分けて理解することが大切です。
既にご加入の医療保険で確認すべきこと
ご自身が既に加入されている医療保険について、税金面で確認しておきたいポイントは以下の通りです。
- 保険料が「介護医療保険料控除」の対象になっているか?
- 保険会社から毎年送られてくる「生命保険料控除証明書」をご確認ください。「介護医療保険料」の欄に支払金額が記載されていれば対象です。この証明書は年末調整や確定申告で控除を受ける際に必要になりますので、大切に保管しましょう。
- 病気やケガで入院・手術などをして保険金を受け取った年があるか?
- もし医療保険から給付金を受け取った年に、ご自身や生計を一つにするご家族が多額の医療費を支払っていた場合は、医療費控除の対象となる可能性があります。その年に支払った医療費の総額と、受け取った保険金などの額を確認し、医療費控除の計算をしてみましょう。医療費控除の申告は確定申告で行います。
まとめ
医療保険は、万が一の病気やケガに備えるための大切な準備です。それに加えて、税制上の優遇措置である「介護医療保険料控除」の対象となることで、支払った保険料に応じて所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。
一方で、「医療費控除」は、実際に支払った医療費が対象となる控除であり、医療保険料そのものが対象になるものではありません。医療保険から受け取った給付金は、医療費控除の計算をする際に支払った医療費から差し引いて計算する必要があります。
ご自身の医療保険が介護医療保険料控除の対象か、生命保険料控除証明書で確認し、年末調整や確定申告で忘れずに申告しましょう。また、多額の医療費を支払った年には、医療費控除の対象となる可能性がないか、医療費の領収書などを整理して確認してみることをお勧めします。
税法は将来的に変更される可能性があります。最新の情報やご自身の具体的な状況については、必ず税務署や税理士などの専門家にご確認ください。