あなたの保険契約、内容変更で節税額はどう変わる?控除への影響を解説
はじめに
既に生命保険や医療保険にご加入されている方の中には、「契約内容を見直したい」「保険料を少し減らしたい」など、契約の変更を検討されることがあるかもしれません。保障内容がご自身のライフプランに合っているかを確認することは非常に重要ですが、保険契約の内容を変更すると、税金に関わる「保険料控除」にも影響が出る可能性があることをご存知でしょうか。
この記事では、保険契約の内容を変更した場合に、生命保険料控除による節税額がどのように変わる可能性があるのか、その仕組みと確認すべきポイントを分かりやすく解説いたします。
保険料控除とは?契約変更との関係
まず、保険料控除の基本的な仕組みについて改めて確認しておきましょう。生命保険料控除とは、納税者が生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に、一定額をその年の所得から差し引くことができる制度です。所得から差し引かれることで、所得税や住民税の負担が軽減される、つまり節税効果が得られます。
この控除額は、1年間に実際に支払った保険料の金額に基づいて計算されます。そのため、保険契約の内容を変更し、その結果として支払う保険料の金額が変わると、当然ながら控除の計算に用いられる金額も変動し、最終的な節税額に影響が出る可能性があるのです。
契約内容の変更例と節税への影響
保険契約の内容変更にはいくつかの種類があります。代表的な変更と、それが保険料控除にどう影響するかを見ていきましょう。
1. 保険料の減額や増額
最も直接的に控除額に影響するのが、支払う保険料自体の変更です。
- 保険料を減額した場合: 年間の保険料支払総額が減少します。これにより、保険料控除の対象となる金額が減るため、控除額が少なくなる可能性があります。結果として、所得税や住民税の負担が増える(節税額が減る)ことが考えられます。
- 保険料を増額した場合(特約の付加など): 年間の保険料支払総額が増加します。これにより、保険料控除の対象となる金額が増えるため、控除額が増える可能性があります。ただし、保険料控除には上限額が定められていますので、いくら保険料を増やしても青天井で控除額が増えるわけではありません。
2. 保障内容の変更(種類の変更を含む)
保障内容を変更した結果、保険の種類が変わるようなケースです。例えば、死亡保障がメインの保険から、医療保障や介護保障が手厚い保険に変更した場合などです。
- 控除区分の変更: 保険料控除には、「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3つの区分があります。変更後の保障内容によっては、支払った保険料がどの控除区分に該当するかが変わる可能性があります。各控除区分にはそれぞれ上限額があるため、控除額の合計に影響が出ることが考えられます。
3. 特約の付加または削除
主契約に加えて、特定の保障を追加する「特約」を付加したり、既に付いている特約を削除したりすることも、保険料総額に影響します。
- 特約保険料の加減: 特約にも保険料がかかります。特約を付加すれば保険料総額が増え、削除すれば減ります。これにより、上記「1. 保険料の減額や増額」と同様に、年間の保険料支払総額が変動し、控除額に影響が出ることが考えられます。
具体的な節税額シミュレーション(簡易例)
では、具体的にどのくらい節税額が変わる可能性があるのでしょうか。ここでは、年間の生命保険料支払額が変更になった場合の簡易的なシミュレーションを見てみましょう。
(前提) * 所得税率: 10% * 住民税率: 10% * 保険は新制度の一般生命保険に加入しているものとします。 * 他の控除は考慮しない単純な例です。
| 年間の支払保険料(新制度) | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 | 所得税の軽減額 | 住民税の軽減額 | 年間の合計節税額 | | :------------------------- | :------------- | :------------- | :------------- | :------------- | :--------------- | | 50,000円 | 40,000円 | 28,000円 | 4,000円 | 2,800円 | 6,800円 | | 変更前: 80,000円 | 40,000円 | 28,000円 | 4,000円 | 2,800円 | 6,800円 | | 変更後: 60,000円 | 40,000円 | 28,000円 | 4,000円 | 2,800円 | 6,800円 | | 変更後: 40,000円 | 30,000円 | 20,000円 | 3,000円 | 2,000円 | 5,000円 | | 変更後: 30,000円 | 20,000円 | 15,000円 | 2,000円 | 1,500円 | 3,500円 |
- 解説:
- 新制度では、年間支払保険料が80,000円を超えると、所得税の控除額は上限の40,000円になります。80,000円の保険料を支払っている場合、所得税の控除は上限額が適用され、節税額は4,000円となります。
- もし保険料を減額して年間60,000円になった場合でも、まだ80,000円の壁を下回っていませんので、控除額は40,000円のまま変わらず、節税額も変化しません。
- さらに保険料を減額して年間40,000円になった場合、所得税の控除額は支払保険料に応じた計算(年間支払保険料 × 1/2 + 10,000円)となり、控除額は30,000円に減少します。住民税の控除額も計算式に基づいて20,000円に減少します。これにより、年間の合計節税額は6,800円から5,000円へと減少します。
- 年間30,000円まで減額すると、所得税の控除額は支払保険料に応じた計算(年間支払保険料 × 1/2 + 10,000円)で25,000円となりますが、新制度では2万円以下で払込保険料の全額となりますので、3万円の払込保険料の場合、控除額は支払保険料に応じた計算(払込保険料×1/2+1万円)ではなく、例えば年間2万円以下の場合は全額が控除額となります。(正確な新制度の計算式に沿って修正が必要です。新制度所得税: 4万円以下は払込保険料×1/2+2万円、8万円以下は払込保険料×1/4+4万円、8万円超は4万円。新制度住民税: 1万2千円以下は全額、3万2千円以下は払込保険料×1/2+6千円、5万6千円以下は払込保険料×1/4+1万4千円、5万6千円超は2万8千円)
- 正確な計算式に基づいて再度シミュレーションを行います。
(修正後前提) * 所得税率: 10% * 住民税率: 10% * 保険は新制度の一般生命保険に加入しているものとします。 * 他の控除は考慮しない単純な例です。
| 年間の支払保険料(新制度) | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 | 所得税の軽減額 | 住民税の軽減額 | 年間の合計節税額 | | :------------------------- | :------------- | :------------- | :------------- | :------------- | :--------------- | | 20,000円 | 20,000円 | 12,000円 | 2,000円 | 1,200円 | 3,200円 | | 変更前: 80,000円 | 40,000円 | 28,000円 | 4,000円 | 2,800円 | 6,800円 | | 変更後: 60,000円 | 40,000円 | 28,000円 | 4,000円 | 2,800円 | 6,800円 | | 変更後: 40,000円 | 30,000円 | 20,000円 | 3,000円 | 2,000円 | 5,000円 | | 変更後: 30,000円 | 25,000円 | 18,000円 | 2,500円 | 1,800円 | 4,300円 |
- 解説:
- 新制度では、年間支払保険料が80,000円を超えると所得税の控除額は上限40,000円、住民税は年間支払保険料56,000円を超えると上限28,000円となります。
- 年間80,000円支払っている場合、所得税控除40,000円、住民税控除28,000円、合計節税額は6,800円です。
- 年間支払保険料が60,000円に減った場合でも、所得税・住民税ともにまだ上限額の計算区分に該当するため、控除額は変わらず、節税額も同じ6,800円です。
- 年間支払保険料が40,000円に減った場合、所得税控除は払込保険料×1/2+2万円で30,000円、住民税控除は払込保険料×1/2+6千円で20,000円となり、合計節税額は5,000円に減少します。
- 年間支払保険料が30,000円に減った場合、所得税控除は払込保険料×1/2+2万円で25,000円、住民税控除は払込保険料×1/2+6千円で18,000円となり、合計節税額は4,300円に減少します。
このように、支払保険料の金額によって、控除額や節税額は段階的に変動することが分かります。特に、控除額が上限に達しているかいないかで、保険料の変更が節税額に与える影響の度合いが変わってきます。
既加入者が契約変更時に確認すべきポイント
ご自身の保険契約の内容変更を検討する際に、節税という観点から確認しておきたいポイントがいくつかあります。
- 変更後の年間の支払保険料総額: 変更によって年間に支払う保険料がいくらになるのかを必ず確認しましょう。
- 保険の種類と控除区分: 変更後の契約が、生命保険料控除のどの区分(一般、介護医療、個人年金)に該当するのかを確認しましょう。特に保障内容を大きく変更する場合は注意が必要です。
- 保険料控除証明書: 契約内容を変更した場合、変更後の内容を反映した「生命保険料控除証明書」が保険会社から発行されます。この証明書に記載されている「申告額」が、年末調整や確定申告で控除の対象となる金額です。変更手続き後、新しい証明書が発行されるか、または既存の証明書に変更内容が反映されるかを確認してください。証明書に記載された金額が、ご自身の計算や期待と合っているかを確認することが重要です。
- 保険会社への確認: 契約内容変更の手続きをする際に、変更が保険料控除に与える影響について、保険会社の担当者に確認してみましょう。具体的な控除額の目安について情報が得られる場合があります。
- 保障内容と保険料のバランス: 節税額の変化も気になるところですが、最も重要なのは、変更後の保障内容がご自身やご家族に必要なものであるか、そしてその保険料が家計にとって無理のない金額であるかという点です。節税効果だけにとらわれず、保障とのバランスを考えて判断することが大切です。
まとめ
保険契約の内容を変更することは、ライフプランに合わせて保障を見直す上で有効な手段です。しかし、それに伴って年間の保険料支払額や保険の種類が変わることで、生命保険料控除による節税額にも影響が出る可能性があります。
特に、保険料を減額した場合や、控除区分の異なる保障に変更した場合には、控除額が少なくなることが考えられます。ご自身の契約変更が節税にどう影響するかを知るためには、変更後の年間の支払保険料を確認し、保険会社から発行される生命保険料控除証明書の記載内容をしっかりと確認することが重要です。
節税は家計改善の一助となりますが、保険の本来の目的は万が一の事態に備えるための保障です。保障内容と保険料、そして節税効果のバランスを総合的に検討し、ご自身にとって最適な選択をすることが大切です。
なお、税法は将来的に変更される可能性があります。最新の情報やご自身の具体的な状況については、必ず税務署や税理士などの専門家にご確認ください。